タイトル | アブサロム、アブサロム! (Absalom, Absalom!) |
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オリジナル言語 | |
初出版年 | 1936 |
出版社 | 集英社 |
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レーベル | 集英社文庫 |
翻訳者 | 篠田一士 |
巻数 | 1 |
各巻の詳細 |
アブサロム、アブサロム! 450ページ |
どんな作品? → 「客観性」の疑わしさ
さらに詳しくはYouTubeの動画でお話しますが、簡単に概要を私の言葉で。
ウィリアム・フォークナーは、1900年代アメリカ文学を代表する南部出身の作家というだけでなく、以降の文学界全体に甚大な影響を与え続けている、現代の文学を語る上で決して外すことの出来ない最重要作家のひとりです。
近年でもガルシア=マルケス、トニ・モリソン、大江健三郎、ジョゼ・サラマーゴ、莫言と、フォークナーに影響を受けた作家のノーベル文学賞受賞が続いており、その流れは今や文学界のひとつのトレンドの様になっている、という事実からも彼の文学界への影響の大きさが見て取れるでしょう。
1929年の第3作「サートリス」にて、自分の生まれ育った南部アメリカの田舎町オクスフォードをモデルにした架空の土地「ヤクナパトファ郡ジェファソン」を設定、バルザック「人物再登場法」のように、以降のほぼ全ての作品の同一の舞台として各作品、登場人物を相互に関連付けた。
この「アブサロム、アブサロム!」では、バルザックにて試みられていた「現代の神話化」の手法をさら応用的に用い、文学に新たな可能性を提示した。
具体的には、長い人類の歴史から考えれば比較的最近にあたる、ほんの数十年ほど前の祖父や曾祖父の時代の出来事を、昔からその村に伝わる話、当時を知る生き証人から伝え聞いた話、託された当時の手紙など、残された僅かな情報から、まるで神話であるかのように物語ることによって、徐々に輪郭を浮かび上がらせていき、足りない部分は大胆にも「予測」で補うというもの。
さらにフォークナーは、バルザックによって恐らく無意識的に、また、プルーストによって恐らく意識的に試みられていた「いつまで経ってもピリオドの来ない長い1文」という手法に「関係詞節の中で別の話が展開していく」というとんでもないアイデアを絡めることで、意図的に読みづらく長大な形に進化させ、独自のごつごつとしたリズム感の文体を確立した。
この手法は、彼の作品群の中でも特にこの「アブサロム、アブサロム!」の中で最大限に活用され、作品中盤のいくつかの文では映画のカット割りを思わせるテンポの良い視点変化も交え、一つの文章の中で息をもつかせぬスピード感を実現している。
(ちなみに、第6章に登場する1288語を有する1文は、1983年のギネス世界記録に「文学史上最も長い1文」として登録された。)
なお、この手法は後のガルシア=マルケス「百年の孤独(※正しくは孤独の百年)」によってさらに進化する。
現代でこそ非常に高く評価されているフォークナーの作品であるが、その一筋縄ではいかない作風からか、出版当時はフランスの一部評論家の間で評価されたのみで、本国アメリカでは業界からほぼ無視されているような状態であった。
ところが1946年に転機が訪れる。
アメリカの有能な編集者マルカム・カウリーによって編まれた、いわゆる「良いとこ取り」の編集版「ザ・ポータブル・フォークナー」は、難解なイメージが強かったフォークナー作品の魅力をわかりやすく、そして、フォークナー自身による新たな解説も加わったことによって各作品どうしを横断する面白いポイントを端的に伝えることに成功し、「埋もれていた作家 ウィリアム・フォークナー 」の名を一躍全国に知らしめると、それまでほぼ全作絶版状態であった彼の作品は次々に復刊、3年後の1949年ノーベル文学賞受賞の足掛かりともなった。
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